あさがおと加瀬さん小説 「出会い」





「今日も頑張ってるなぁ。」

屋上での部活の休憩中、中庭を見ると、いつもの後ろ姿があった。
彼女は緑化委員らしく、ほぼ毎日中庭の手入れをしている。
可愛らしい顔つきに綺麗な白い肌、華奢な体。

「かわいいなぁ。」

いつからか私は、名前も知らない彼女に見とれてしまっていた。
しかし、この日の彼女はいつもと様子が違った。
それまでせわしなく動かしていた手を止めたかと思うと、指を口元に持っていく仕草。
私は、状況を判断するなり反射的に彼女の元へ駆けだしていた。

「大丈夫?」
「ハサミで指を切っちゃって。」

ハンカチで傷口を押さえてはいるが、血が滲んでいるのが見える。

「大変だ、今すぐ保健室行こう。」
「こんなのよくありますし、そんな大事じゃ・・・。」
「ダメだよ、せっかく綺麗な肌なのに!」
「え?」

しまった。
初対面の相手に何を言ってるんだ私は。

「そんなこと初めて言われました、ありがとうございます加瀬さん。」

ドン引きされると思っていたから、まさかお礼を言われるなんて。
というか、今・・・。

「なんで私の名前を・・・。」
「陸上部で大活躍じゃないですか、有名人ですよ。」

まさか彼女の口から名前を言ってもらえるとは。
透き通るように美しいその声は、さらに私を魅了させた。

「私は、隣のクラスで緑化委員の山田結衣って言います。」

なんてイメージにぴったりな名前なんだ。
名前を知ることができただけでも、話し掛けてよかったかもしれないが、今はそれどころではない。

「そうだ、早く手当てしないと。」
「すみません、部活中なのに。」
「気にしないでよ。」

山田と並んで保健室へ歩き出す。
私の背が高いせいもあるが、隣にいると山田の華奢さが一層よく分かる。

「なんだか加瀬さんと話しているなんて不思議な気分です。」
「どうして?」
「だって、加瀬さんはみんなのスター的な存在で、私なんかとは世界が違うと思ってたから。」

なぜ自分をそんなに無下に扱うのだろうか。
私は、山田のことをずっと見ていたのに、それを否定されたようで、思わず口が動いた。

「私は、山田が雨の日も、風が強い日も、暑い日も、休みの日だって、毎日欠かさず手入れしてるのを知ってる。」

さっきまで名前すらも知らなかったくせに生意気、と思われたかもしれない。
どこから私のことを見てたんだ、と罵られるかもしれない。

「中庭が季節ごとに綺麗な花を咲かせるのも、山田のおかげなんだよ。私には絶対にそんなことできない。私にとっては山田がスターだよ。だから、そんなこと言わないでよ。」

それでも、世界が違うなんて悲しいことを思って欲しくなかった。

「優しいんですね、加瀬さん。」

そう言う山田は、どこか照れているような表情で。

それを見た私も、先ほどの自分の台詞を思い出して、少し恥ずかしくなってしまった。
少し気まずい雰囲気のまま、保健室に入る。

「失礼します。」

先生がいる様子はない。
放課後のこの時間では、別に珍しいことではない。

「確か、ここに・・・あったあった。」

普段からケガでお世話になることが多い私は、すぐに消毒液や絆創膏を見つけることができた。

「山田、座って。」
「うん。」
「少し染みるけど我慢してね。」

ケガをしている山田の指に消毒液を吹き掛けると、絆創膏とテーピングを施す。

「加瀬さん慣れてますね。」
「私もケガした時に自分でやってるからね。」

山田の手は、私よりも一回り小さくて、少しひんやりしていて気持ち良い。
白い肌は、私が思っていた以上にすべすべで、いつまでも触っていたいと思うくらいだ。

「はい、終わり!」
「ありがとうございます、加瀬さん。」

備品を元の場所に戻すと、2人で保健室を出る。
初めての出会いで、こんなにも長い時間山田といられて幸せだ。
だけど、このまま離れてしまうのは、あまりにも勿体ない。

「最初は軽く切っちゃったくらいだと思ったんですけど、思ったより血が出てきちゃって困ってたので、助かりました。」

・・・これは、もしかしたら口実に使えるかもしれない。

「せっかくだからアドレス交換しない? また何かあったら連絡してよ。」
「いいんですか? じゃあQRコード出しますね。」

山田には悪いと思いながらも、嬉しくて仕方がない。
今まで遠くから見つめることしかできなかったのが、今日1日でここまで進展するなんて、思ってもいなかった。

「こんな所にいた。もうとっくに休憩時間終わってるよ。」
「あ、ごめんなさい。加瀬さん、部活中でしたよね。」

すっかり忘れてた。
残念だけど、幸せな時間もここまでだ。

「じゃあ、またね山田。」
「はい。」

そう言う山田の笑顔は、まるで天使のように美しくて。
私は、山田のことが好きなんだと確信した。

「お待たせ。」
「ずいぶん嬉しそうだね。」
「そうかな。」

これから始まるだろう幸せな日々が楽しみだ。



最後まで小説をお読みいただき、ありがとうございました。
初めての「あさがおと加瀬さん」小説でしたが、いかがでしたでしょうか?
最近は1,000文字に満たない短編ばかり書いていた私にとっては、2,000字近いこの小説は久々の長編でした。

「あさがおと加瀬さん」は漫画が原作ですが、この小説は私が劇場版OVAを見た段階で想像した2人の出会いを書いたものです。
そのため、原作とは矛盾した内容となっていることをご了承ください。
性格も違ければ、部活などでも関わりが無い2人がどのように出会ったのか、想像しながら書くのは楽しかったです。
実は、以前書いた「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の「天王寺璃奈×宮下愛」の出会いを書いた小説も同様のパターンでして、あとから原作を読んで「なるほどこういう出会い方なのか・・・」と答え合わせをするのも面白かったです。

また機会があれば書きたいと思います。

ご意見・ご感想をお待ちしております。





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