きんいろモザイク小説 「放課後の日課」





「ねぇ、まだ終わらないの?」
「もうちょっと。」
「もう・・・。」

誰もいなくなった放課後の教室に、私と陽子の声が響く。

「それにしても、綾の髪は本当に綺麗だな。」

陽子が、私の髪を手櫛で梳きながら言う。
もう、かれこれ5分以上もこの状態である。


『綾の髪、長くて綺麗だな。触っても良い?』


始まりは、そんな陽子の何気ない一言だった。
最初は、半月に1度くらいだったと思う。
それが、1週間に1度、3日に1度と増えていき、いつの間にか放課後の日課のようになっていた。
時間はその時によってまちまちで、すぐ終わる時もあれば、5分以上続く時もある。
その間、ずっと私は陽子に髪を梳かれている。

ただ髪を梳かれているだけ。
けれど、髪を通じて陽子の指の感触が伝わってくると考えるだけで、私にはとても耐えられない。

「よ・・・陽子。」

どうにかなってしまいそうだった私は、無意識に陽子の名前を呼んでしまった。

「ん?」

手を止めて短く返事をする陽子。
名前を呼んでしまったからには、何か言わないと不自然だ。
だが、意図せずして陽子の名前を口に出してしまった今の私は、何の話題も考えていない。

一瞬、沈黙が流れた。

「わ・・・私も、陽子の髪、触ってみたい。」

これが、混乱していた頭でようやく導いた言葉だった。
確かに、前から陽子の髪を触りたいとは思っていたけど、まさかこのタイミングで言ってしまうとは・・・。

「私の髪なんて、クセっ毛だし、あんま手入れもしてないから、触ってもしょうがないと思うけど・・・。」
「私ばっかり触られるのはズルいと思うの。陽子も私に触られるべきだわ!」

自分で言っておきながら、まったくもって意味不明である。

「確かに、いつも綾ばっかりじゃ悪いし、そこまで言うならお願いしようかな。」

今の私の言葉に納得してしまうあたり、さすが陽子である。
しかし、これで私が陽子の髪を触る流れになってしまった。
自分からあんな発言をしたくせに、まったく心の準備ができていない。

「じゃあ、触るわよ・・・。」

気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと陽子の髪に手を伸ばしていく。
しかし、心臓の鼓動は一向に治まる気配が無い。
それでも、陽子の髪に触れることができる貴重なチャンス。
私は、そのまま手を伸ばした。

「ん・・・。」

指先に柔らかな感触を感じると同時に、陽子の口から僅かに声が漏れた。

「くすぐったいの?」
「うん。あんまり他の人に髪触られたこと無いから・・・。」

私は、そのまま指を毛先のほうへと滑らせた。
私のとは違い、少しクセのある陽子の髪は、それでもサラサラとしていた。

その心地良さに何度か梳いていると、良い香りが私の鼻孔をくすぐった。
私が好きな、とても落ち着く香りだ。
先ほどまであんなに五月蝿かった心臓の鼓動も、嘘のように治まっていた。
この香りが気になった私は、陽子に訊いてみた。

「陽子は何か特別なシャンプーを使ってるの?」
「特にこだわってはないよ。その時安かったヤツとかを適当に使ってる。」

とても陽子らしい答えだ。
しかし、だとするとこの香りは、シャンプーは関係無いのだろうか。
一般的な市販のシャンプーを使っているということは、他にも同じ香りのする人がいるはずだ。
でも、この香りは陽子だけでしか感じない。

もしかして、これって陽子自身の香りってことなんじゃ・・・。

「な・・・何言ってんだよ綾!」

陽子の声にハッと我にかえる私。
どうやら無意識のうちに声に出してしまっていたらしい。
陽子に聞かれていたかと思うと、急に恥ずかしくなってきた。
せっかく治まっていた心臓の鼓動が、再び加速しはじめた。

「今のは違うの! その、えっと、だからね・・・。」

とりあえず何か言い訳をしようとして、しかし頭が働かずに言葉に詰まってしまう。
ふと陽子の顔を見ると、長い付き合いの私でも今までに見たことの無いほど赤くなっていた。
もしかして、照れているのだろうか。

「今日はもうおしまい。帰ろ!」

私の視線に気づいたのか、短くそう言うと、少し慌てて帰り支度を始める陽子。
同時に、今まで指先に感じていた温もりが消え、続いて香りも少しずつ消えていった。



2人きりの帰り道。
いつもは2人並んで歩くが、今日は陽子が私の数歩後ろにいる。
当然、私と陽子の距離は遠くなり、必然的に会話もなくなる。

「・・・言っとくけど、綾だってすごく良い香りだからな。」

少し気まずかった空気を切り裂いたのは、いつもよりいくらか低いトーンの陽子の声だった。
いきなりの言葉で、最初は何を言われたのか理解できなかった。

「だから、さっきの仕返し!」

陽子のほうに振り向こうとした瞬間、私の後頭部にズシリとした重みが加わる。

「やっぱり、綾の香りは落ち着くなぁ。」

いつの間にか、いつも通りの陽子の声になっていた。
そして、なぜか首筋に感じる陽子の吐息。
数秒後、私はようやく、陽子が私の頭に顔を埋めているという状況だと分かった。
それだけでも大変なことなのに、さらに髪の匂いを嗅がれているなんて・・・。

「よ・・・よよよ陽子のバカぁ!」

信じられない出来事にパニックになった私は、この一言を言うのが精いっぱいだった。


――


「なぁ綾、触らせてくれよ〜。」
「絶対に嫌!」
「綾はすごく良い香りするから気にすること無いって。」
「その話はしないでって言ったでしょ!?」

あの日以来、私は陽子に髪を触らせていない。
触られると、あの時のことを思い出して、どうかしてしまいそうだからだ。

でも、一方で、あの時の陽子の表情をもう一度見たいとも思ってしまう。
だから・・・

「少しだけ触らせてあげるわよ。き・・・今日だけ特別なんだからねっ!」



最後までお読みいただき、ありがとうございました。
初めての「きんいろモザイク」小説でしたが、いかがでしたでしょうか?

今回この2人を選んだのは、単純にこの2人が好きだからですw
きんいろモザイクなのに金髪キャラが登場しないという・・・。陽子が茶髪だから問題ありませんよね?(は?

正直、きんいろモザイクは非常に書きにくかったです。
"綾×陽子"を目指したのですが、あまり百合百合させることができませんでした。
着地点が定められず、後半迷走気味になってしまいました・・・。
書いては消し、書いては消しを繰り返し、この終わり方も正直納得していません。


「きんいろモザイク」、ぜひ2期を期待したいところです!


ご意見・ご感想をお待ちしております。


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